量子もつれを理解する

量子もつれ(Quantum Entanglement)は、量子力学の中でも最も興味深い現象の一つです。これは、二つ以上の量子粒子が非常に強い相関関係を持つ状態を指します。この相関関係は、たとえ粒子が物理的に遠く離れていても維持され、片方の状態が決まると、もう一方の粒子の状態も即座に決まるというものです。アインシュタインはこれを「不気味な遠隔作用」と呼び、この現象に疑問を投げかけましたが、現在の量子力学の理論では実験的に確認されています。

量子もつれの基本的な仕組み

量子力学では、粒子は「重ね合わせ状態」にあります。例えば、電子のスピン(回転の方向)は上向きでも下向きでもなく、上向きと下向きが重なった状態として存在します。これは観測されるまで確定しない状態です。

二つの粒子がもつれ状態にあるとき、たとえばスピンの上向きと下向きが同時に重ね合わさっているとします。これらの粒子はもつれ合い、片方のスピンが確定すると、もう片方のスピンも自動的に反対方向に確定します。距離にかかわらず、この相関は瞬時に起こります。

例:2つのフォトンのもつれ

具体的な例として、2つの光子(フォトン)のもつれを考えます。光子Aと光子Bはもつれた状態にあり、それぞれが同じスピン(偏光)を持っています。これらの光子を地球と月のように離しても、光子Aを観測した瞬間に、光子Bの状態が即座に決まります。

例えば、光子Aが「垂直偏光」だと確認された場合、光子Bは必ず「水平偏光」であると決まります。これは、距離がいくら離れていても、どちらか一方を観測することで、もう一方の状態が瞬時にわかることを意味しています。

 

ベルの不等式と実験

量子もつれは、「ベルの不等式」と呼ばれる理論的な限界を超える相関を示します。1960年代にジョン・ベルによって提案されたベルの不等式は、古典的な物理法則で説明できる相関の限界を示しています。しかし、量子もつれを含む実験では、これを超える相関が観測され、量子力学の正しさが支持されました。

アラン・アスペの1982年の実験は、この現象を具体的に証明した代表的なものです。彼のチームは、もつれた光子対を作り、それぞれを遠く離れた場所で測定することで、瞬時の相関が古典物理学の枠を超えていることを確認しました。

応用:量子コンピュータと量子通信

量子もつれの現象は、単なる理論的な奇妙さにとどまらず、さまざまな応用が期待されています。特に、量子コンピュータと量子通信の分野では、もつれが重要な役割を果たします。

  1. 量子コンピュータ
    量子コンピュータは、もつれた量子ビット(キュービット)を利用して、従来のコンピュータでは不可能な計算を非常に高速で行います。もつれたキュービットは、多数の状態を同時に計算に利用できるため、並列計算の能力が飛躍的に向上します。

  2. 量子通信
    量子もつれを利用することで、理論的には完全に安全な通信が可能になります。量子暗号技術では、もつれた粒子の性質を使い、盗聴が試みられた場合にはその痕跡が残るため、安全性が確保されます。また、量子テレポーテーションと呼ばれる技術も、量子もつれを利用して、情報をある場所から別の場所へ瞬時に転送する可能性を探っています。

量子もつれのパラドックス

量子もつれは直感に反するため、多くの疑問を引き起こします。特に、「どうして瞬時に情報が伝わるのか?」という点は、光速が宇宙で最も速い速度であるというアインシュタインの相対性理論に反するかのように見えます。しかし、量子もつれでは情報そのものが超光速で伝達されているわけではありません。もつれた粒子間で相関が存在するものの、その情報を使って通信やデータ転送はできません。したがって、相対性理論と矛盾することはないとされています。

結論

量子もつれは、量子力学の驚くべき現象であり、私たちが知っている古典的な物理法則を超えた領域に関わっています。この現象は、実験によって確認され、量子コンピュータや量子通信といった応用分野で活用が期待されています。

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