時計のない宇宙で「時間」をどう考える? 熱時間仮説への入口
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宇宙を説明するとき、その外側に、全体の時刻を刻む時計を先に置かないとしたら。針が動く、信号が届く、粒子が検出される。変化同士を比べることはできそうです。では、どの変数を、普段「時間」と呼んでいるものとして使えばよいのでしょうか。
これが、熱時間仮説への入口です。物理的な記述の中から、時間の流れをどう選び出せるのか、という提案です。普段使っている時計が、実は幻だったという話ではありません。
時計を選ぶと、問いが変わる
以前のエントロピーと時間の矢の記事では、身近な現象に、なぜ進みやすい向きがあるのかを考えました。今回は、その前に、時間として使う変数をどう選ぶのか、という問いです。
重力を含む理論では、外部から与えられた、普遍的に特別な時間を、いつでも使えるわけではありません。その状況へ統計力学を広げようという問題意識が、熱時間を考える動機の一つです。ロヴェッリの後の論文では、この問題に向けて、平衡や温度の定義を組み立てています。一般相対論的な統計力学についての論文はこちらです(英語)。
状態から出発して、流れを探す
1994年、アラン・コンヌとカルロ・ロヴェッリは、系の統計的な状態に結び付く流れを、物理的な時間の流れとして捉える仮説を提案しました。統計的な状態は、物理量についての確率を記述します。一枚の写真というより、あり得る微視的な配置についての記述を思い浮かべるとよさそうです。
この提案では、何を観測できるかを表す数学的な構造も前提にします。適切な条件のもとで、その構造と状態から、モジュラー流と呼ばれる流れを定義できます。この数学的な流れを、物理的な時間と結び付ける部分が仮説です。コンヌとロヴェッリの原論文で、この構成が説明されています(英語)。

なぜ、温度が登場するのか
通常の平衡状態を表すギブス状態では、熱時間の流れは、温度に応じて尺度を変えると、見慣れた力学の時間の流れに対応します。温度が、二つの時間のパラメーターを結び付けるのです。「熱が時間を生み出す」という一言より、条件を絞った関係です。
ロヴェッリとマッテオ・スメルラクは、この考え方を、定常的な重力場での平衡へ適用しました。そして、平衡にあっても、場所によって温度が異なり得るトルマン=エーレンフェストの関係を導いています。仮定と導出は、こちらの論文で確認できます(英語)。これは理論的な適用例です。仮説全体を実験で確認したという話でも、過去を変える方法でもありません。
すべての部分に、一つの親時計が必要?
関連する理論研究では、ニコラス・メニクッチ、S・ジェイ・オルソン、ジェラード・ミルバーンが、有限の量子系の部分ごとに時計を考えています。系全体を一つの時計で記述しようとする代わりに、局所的な記述を組み立てる手順です。時計と関係的な記述を扱った研究はこちらです(英語)。
すると、問いは少し具体的になります。この時計は何を測っていて、別の時計とはどう比べるのか。そうした問いに答えるモデルと、実際に動作が確かめられた装置は、区別して読む必要があります。
SFなら、待ち合わせ時刻を誰が決める?
ここからは、『BOZWARZ』とは独立した、架空の例です。二つの文明が、遠い研究ステーションで待ち合わせます。片方は、基準となる装置の周期を数えています。もう片方は、自分たちの環境を統計的に記述して、予定を決めています。どちらも「100単位後に集合」と連絡してきました。
最初に困るのは、とても実務的なことです。その連絡を同じ意味にするには、何を交換すればよいのでしょう。数字の一覧だけでは足りないかもしれません。基準にしている系、その状態、そして時計の読みと出来事を結び付ける規則まで、説明する必要がありそうです。
これは熱時間を実装した装置の説明ではなく、物語のための問いです。締め切りに合意する前に、そもそも時計についてどう合意するのか。抽象的な話から、そんな交渉が始まるところに、SFの面白さもあります。
このテーマに興味のある方は、こちらの小説も読んでみてください。